
まるで学園祭の準備をする学生のような、瑞々しい心持ちにさせられる日々だ。
昨日から、いよいよ壁に下絵を描く。いったいどうやって、壁に描くのか。みな初めての経験で、ぎりぎりになるまでわからない。どの下絵を切り取り、どの下絵をそのままにして壁に貼るのか。西森さんはその場で考え、判断する。ゆえに指示待ちだ。
高齢の西森さんの体調も慮りつつ、一方で多くのこどもと大きな壁と向き合うに際してのバランスが、際どい。安全面や時間的な制約を考えると、すべて西森さんの理想や希望通りに運ぶのは不可能。喧喧諤諤、互いに意見をぶつけながらの作業でもある。
壁に構成を決めるこの作業こそが、壁画作成の肝ゆえ、エネルギーの応酬が発生することは推して知るべし。とはいえあまりの混沌に、最初は途方に暮れる思いだった。しかし、徐々に形になっていく様子を見て、少しずつ、安堵する。
今回の壁は高さがある。この高さを生かしたいから、足場を用意してほしいと頼まれていた。これが今回の準備で最も悩まされた。
そもそもインドの足場といえば、木材を縄で縛る簡易なものが一般的。次いで、あらかじめ組み立てておくメタル製のもの。壁画を作成するには可動式でなければならないから、もちろんそれじゃだめだ。
数カ月前、いろんな業者をリサーチし、見積もりを取った。足場は安全性が第一だから、安いところではなく、信頼性のあるところを選ぶ必要がある。各方面に当たった結果、バンガロールの日本企業が取引している業者を紹介してもらい、決めた。
しかし、この足場一つを取っても、借りるのは簡単ではない。1週間のレンタル費用は数万ルピーだが、デポジットとしてあらかじめ10万ルピー(日本円にして18万円程度)を預けなければならない。ミューズ・クリエイションはNGOの団体で、申請書類を網羅できないことから、EKYAスクールに立て替えてもらうなど、お願いした。
さらには2日前に届くはずの足場が届かず(インドではありがち)、前夜の夜8時ごろとなった。組み立てには一人の技術者が指導してくれるが、4人ほどの大人の手がいる。EKYAスクールのドライヴァーやセキュリティが居残って、手伝ってくれたのだった。
安全ベルトとヘルメットは、バンガロールでインド人の土木建築技術者を養成しているiTipsが無償で貸し出してくれた。
この足場一つをとっても、さまざまな物語と人々のサポートがある。そんなことも、日本チームには知っておいてほしい。
実は初日、インドの料理が食べられない日本チームが多く、ゲストハウスの朝食も無理、学校が用意してくれるランチもダメ、ということで正直なところ、非常に困惑した。日本を離れて29年。日本の現在を知らないわたしには、どう対応すべきかわからない。
夜、ミューズ・クリエイションの実行委員グループのWhatsAppに救いを求めたところ、みなさんそれぞれに、いろいろな提案をしてくれた。日々、10名ほどのメンバーが入れ替わり立ち替わりサポートに来てくれている。
昨日は、朝早くからおにぎりを作ってきてくれる人、即席味噌汁を持ってきてくれる人、辛くないいい感じのランチ注文を手配してくれる人、ひとりひとりのこどもの声を聞いてくれる人、帰路の買い物に付き合ってくれる人……と、さまざまに、関わってくれる。
ランチの前には、教室に集合した日本チームを前にして、このプロジェクトが実現したのは、あらかじめミューズ・クリエイションのメンバーや学校が準備してくれたからなのだということを、念を押すように伝えた。インドでこのようなイヴェントを実現することは、日本でやるよりも途方に暮れるほど労力を要することなのだということも、知っておいてほしい。
メンバーの中には、大渋滞のバンガロール、片道2時間ほどもかけて来てくれる人たちが何人もいる。毎朝1時間、2時間かけてスクールバスに揺られて通学する日本人のこどももいる。そんな人たちとの関わりも、大切にしてほしい。
壁画を描きに来たから、壁画を描けばいい……というのではない。一つの作業を通して、取り巻く出来事こそが、プライスレスなのだ。そこには成功も失敗もない。

最初は疲れや緊張もあって、戸惑いがちだった日本のこどもたちも、インドのこどもたちの歓迎や、積極的な声かけや交流もあって、笑顔も増え、楽しそうに活動している。途中で言葉を教えあったり、「だるまさんがころんだ」をして遊んだり、小さな何かをプレゼントしあったり……。
そして昨日は、放課後、学校が遊びやダンスの時間を設けてくれた。服の上からスカートを履き、デュパタを巻き、即席のインドファッション。作業が終わった後は、わたし含め、みな疲労困憊で、もう帰りたそうな顔をしている人が大半の日本チームだったが、インドのこどもたちの元気さや笑顔のおかげで、踊りの輪に入った。
わたしも超疲れていたのに超楽しそうに踊っていて、自分でも超びっくりした。
日本チームの大人の一人は、こどもの保護者であり、学校で体育を教えているダンサーでもいらっしゃる。インドの先生のリクエストに応じて「ソーラン節」を踊ってもらったところ、これがもう、びっくりするほどすばらしい! 水を得た魚のように踊る姿に、インドの先生やこどもたちも大喜び。一緒に真似をして踊る。ダンスの威力、恐るべし!
ポジティヴなエネルギーは、疲労を吹き飛ばして力をくれるのだということを目の当たりにした。
わたしは昨夜、9時半に就寝。本当は8時間寝たかったが、雨音に起こされて3時ごろに目覚めてしまった。ベッドでごろごろしていたが、4時には起き上がって、こうして記録を残す次第。
まだモンスーン開けやらぬバンガロール。昼間はまた、晴れてくれることを祈りつつ、今日はいよいよ、壁にペンキで筆を入れる日だ。楽しみだ。
















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